今年7月、全国で初めて「SNS型投資詐欺」グループの拠点を大阪府警が摘発。被害総額は9億5000万円以上、総勢92人が逮捕された。取材班が逮捕者の1人に直接取材して、この詐欺グループの実態に迫った。
被害者「ボタンをポチっと押すだけで簡単に稼げて沼にハマった」
(SNS型投資詐欺の被害者 Aさん)「これはインスタグラムの相手のアカウントになります。お子さんがいる中でもブランド品を自由に買ったりとか旅行に行ったり、自由に暮らしている感じでうらやましいなと思いました」
大阪府内に住むAさん(40)。2年前、突然知らない女性からインスタグラムをフォローされた。投稿されていたのは子どもたちとの優雅な日々に…高級ブランド品の数々。憧れの気持ちを抱く中、突然ダイレクトメッセージである誘いが届いたという。
(Aさん)「バイナリーオプション。ハイアンドローを使って簡単に上か下かボタンをポチっと押すだけで簡単に稼げるよみたいな。ちょっとそこからどんどん沼っていったというか」
バイナリーオプションとは、為替相場の上げ下げを予想して投資する取引のこと。今より上がるのか、下がるのか、二者択一で選択するだけで誰でも簡単にすぐに始められる。Aさんは女性にすすめられるがまま、試しに無料で取引をやってみると…
(LINEのトーク画面より)「ここまで初めてでタイミング合わせられる人なかなかいないですよ!もしかしてAさんセンスある感じですか?」
本来、勝てる可能性は2分の1のはずだが勝率はなんと8割超え。一体なぜなのか?尋ねると女性はあるシステムを使っていると答えた。そのシステムとは、確実に勝てるタイミングで為替の上げ下げの予想が画面上に表示されるというもので価格は40万円。当時、病気で職を失っていたAさんは、すぐに元が取れると思いシステムを購入した。ところが…
(Aさん)「全く勝てなかったです。正直怒りだけですよね、払った金額も金額なので落胆した」
全国初『SNS型投資詐欺グループの拠点摘発』逮捕者は総勢92人に
いま、SNS型投資詐欺による被害が相次いでいる。今年1月~6月の認知件数は3570件と、前の年から急増しているのだ(警察庁調べ)。こうした中、7月に動きがあった。
SNS型投資詐欺グループのアジトに捜査のメスが入った。警察に逮捕されたのは主犯格の山田吉彦容疑者ら総勢92人。投資の商材購入などの名目で20代の女性から現金約90万円をだまし取った詐欺などの疑いが持たれている。こうした拠点の摘発は全国初。被害者は少なくとも150人で被害金額は9億5000万円以上にのぼるとみられる。
「お客さんというより金づる」別の詐欺グループにいた人物を取材
一体、どのような人物が詐欺に手を染めているのか?取材班は同様の詐欺をはたらくグループにいた人物に接触することができた。今回、摘発されたのとは別の詐欺グループにいた翔貴さん(30代・仮名)。
(翔貴さん ※仮名)「SNSを使ってモノを売る、サービスを売りますと。月収50万円いく人もいれば100万円いく人もいるし、やればやっただけ稼げるよと」
5年前、求人サイトで見つけた「WEBマーケティングを学べる」という広告会社に転職した。オフィスに入ると待っていたのは…
(翔貴さん)「初日出勤したときにまず渡されたマニュアルがあるんですけど、Twitter(現:X)のアカウントが凍結したときの対策マニュアル。初日からもうすでに違和感を感じました」
翔貴さんは女性になりすましたインスタグラムを運用。インターネット上で探した他人の高級ブランド品や旅行の写真などを無断で投稿し、だます人を集めるいわゆる「打ち子」だった。
(翔貴さん)「(打ち子は)35、6人くらいおりまして、男女比で言うと圧倒的に男性が多い。自分の稼いだ分が自分の給料に反映されるのでピリピリしていた感じはありました。お客さんというより金づるみたいな」
グループの月の売り上げは8000万円ほどにのぼり、主なターゲットは主婦だったという。
(翔貴さん)「例えば主婦さんが好みそうなスターバックスコーヒーの新作きょう飲みに行きましたよと。その投稿の影にしれっとブランドのバッグ置いてあって優雅な午後を過ごしてますみたいな。自分もシングルマザーで苦労したみたいな設定のキャラクターにしたりもありました」
次第に罪悪感を抱いた翔貴さんは入社から8か月で会社を辞めた。
逮捕者の1人が語る『詐欺グループ』の実態とは
では、今回摘発されたグループの実態はどうなのか?逮捕された92人のうち、釈放された約50人に直接取材を試みた。すると、その中の1人、20代の男性がメモをとる形でのみ、という条件で取材に応じた。
(20代男性 ※取材ノートより)「インスタ班に所属し、スマホ28台91アカウントを任されていた。給与は完全歩合制だった」
1年前に知り合いから「稼げる営業の仕事がある」と誘われたという男性。給与は完全歩合制で売り上げの20%ほどを現金で受け取れると説明されたという。
男性によると、職場は大阪市内にあるビルの一室で、机の上には充電器につながれた大量のスマホがずらり。メンバーはメッセージを送る「インスタ班」と、そこから引き継いで投資をすすめる「LINE班」に分かれ、「リーダー」と呼ばれる人物が全体を監視する。男性がいつも通りスマホを眺めていた7月23日の午後2時。
(取材ノートより)「大阪や!全員たて。わかってるやろ!」
大阪府警が職場に踏み込んだ。男性も詐欺未遂の疑いで逮捕された。
(20代男性 ※取材ノートより)「犯罪の意識は全くなかった。あったらこの仕事を選んでいない。もう絶対やりたくない」
「勧誘を受けている人は犯罪だと認識して」専門家が注意喚起
こうした詐欺被害の相談を受ける専門家は、今回摘発されたのは氷山の一角だという。
(丹誠司法書士法人 和田勇祐代表司法書士)「ノウハウを学んだというか知った人がどんどん分裂して他のグループを形成している可能性があります。他の特殊詐欺と同じように打ち子の人たちは単に利用されているだけかなと。こういった(打ち子の)勧誘を受けている人は、これは犯罪だと認識して思いとどまってほしいと思います」
私たちの日常に迫りくるSNS型投資詐欺。首謀者とされる中村晋弥容疑者・上家夕貴容疑者・吉岡公充祥容疑者の3人はいまも逃走を続けていて、警察が行方を追っている。